前回は、図2に示す公差位置と公差グレードを組み合わせた公差域クラスを使用して、ねじの許容限界寸法を指定することをお話しました。
図2 公差域クラス6G、6gのイメージ図 |
JIS B 0209-1では、推奨する公差域クラスを指定しています。表1、2のようにめねじとおねじについて、はめあい区分とはめあい長さの組み合わせで「推奨する公差域クラス」が規定されています。
ちなみに、はめあいとは図3のようにおねじとめねじ、あるいは軸と穴が互いに接触し、はまり合っている関係を言います。
図3 はめあいとはめあい長さ |
はめあい長さは図3のおねじとめねじが接触している部分の長さをいいます。
はめあい区分、はめあい長さは下記のように定義されています。
はめあい区分:
精:はめあいの変動量が小さいことを必要とする精密ねじ用。
中:一般用
粗:熱間圧延棒や深い止り穴へのねじ加工等製造上困難が起こり得る場合。
はめあい長さ:
下記のように、アルファベットS、N、Lで指定します。
S:短い、 N:並、 L:長い
はめあい長さ(S,N,L)は、呼び径とピッチの組み合わせで、表3のように規定されています。
例えば呼び径がM10でピッチが1.5の並目ねじのボルトと六角ナット1種(厚さ8mm)のはめあい長さは、表3より「N:並」になります。
標準ボルトの製造のように、ねじの実際のはめあい長さが分からない場合には「N:並」が推奨されます。
はめあい区分 | 公差位置G | 公差位置H | ||||
S | N | L | S | N | L | |
精 | – | – | – | 4H | 5H | 6H |
中 | (5G) | 6G | (7G) | 5H | 6H | 7H |
粗 | – | (7G) | (8G) | – | 7H | 8H |
はめあい区分 | 公差位置e | 公差位置f | 公差位置g | 公差位置h | ||||||||
S | N | L | S | N | L | S | N | L | S | N | L | |
精 | – | – | – | – | – | – | – | (4g) | (5g4g) | (3h4h) | 4h | (5h4h) |
中 | – | 6e | (7e6e) | – | 6f | – | (5g6g) | 6g | (7g6g) | (5h6h) | 6h | (7h6h) |
粗 | – | (8e) | (9e8e) | – | – | – | – | 8g | (9g8g) | – | – | – |
呼び径D,d | ピッチ P |
はめあい長さ | ||||
S | N | L | ||||
を超え | 以下 | 以下 | を超え | 以下 | を超え | |
5.6 | 11.2 | 1 | 3 | 3 | 9 | 9 |
1.25 | 4 | 4 | 12 | 12 | ||
1.5 | 5 | 5 | 15 | 15 | ||
11.2 | 22.4 | 1.5 | 5.6 | 5.6 | 16 | 16 |
1.75 | 6 | 6 | 18 | 18 | ||
2 | 8 | 8 | 24 | 24 |
さて公差域クラスに話を戻しますと、普通(市販)のめねじ、おねじは表1、2で太枠がついた公差域クラスすなわち、めねじは6H、おねじは6gが適用されます。
それ以外は、太い文字:第1選択、普通の文字:第2選択、括弧:第3選択となります。
表1、2以外の公差域クラスは推奨できないもので、特別の場合のみに用いるとされています。
また、表2において5g6gのように2つの公差域クラスを並べているものがありますが、これは有効径の公差域クラスと外径の公差域クラスが異なる場合に両者をこの順番に並べて記述することになっています。
以上、公差域クラスの説明をしました。最後に、ねじの呼び方のお話をします。ねじの呼び方は、ねじの種類、サイズ、ねじの公差域クラスからなり、必要であれば更に、個別の項目を続けるとJISに書かれています。参考のために、以下にねじの呼び方を例示します。
例
・呼び径10mm、ピッチ1mm、公差域クラス5g6g、はめあい長さSのおねじ → M10×1-5g6g-S
・呼び径20mm、ピッチ2mm、公差域クラス5H、はめあい長さSのめねじ → M20×2-5H-S
上記呼び方で、一部表記が省略可能です。表記が省略された場合の意味は以下の通りです。
・ピッチ表記がない場合
→並目ねじ
・公差域クラス表記がない場合
→表4に示す公差域クラスで、はめあい区分「中」が適用されます。
・はめあい長さ表記がない場合
→はめあい長さは「N:並」が適用されます。
おねじで単に「M10」という表記であれば、M10の並目ねじ、ピッチ1.5、公差域クラス6g、はめあい区分:「中」、はめあい長さ「N:並」を指定したことになります。
左ねじの場合には、下記のようにねじの呼び方の後にダッシュで区切って、文字「LH」を追加します。はめあい長さの「L」と紛らわしいので、要注意です。
例
M8×1-LH、M6×0.75-5h6h-S-LH
以上がねじの呼び方の基本ですが、疑義が生じたときは設計者の意図を確認する必要が有りそうですね。
めねじ | おねじ |
5H(M1.4以下) | 6h(M1.4以下) |
6H(M1.6以上) | 6g(M1.6以上) |