今回もJIS B 0101のねじ用語からのお話です。
一般市販品のねじはほとんどが「右ねじ」です。物理学の法則で「右ねじの法則(※3)」というのがありますが、右ねじの意味が分からないと「右ねじの法則」も理解できませんね。JISでは「右ねじ」は図4のように「軸方向に見たとき、時計回り(右回り)にたどれば、その人から遠ざかるようなねじ」と定義されています。つまりドライバで右ねじを締めるためには時計回りに回転させればよいのです。「左ねじ」はその逆で、図5のように「軸方向に見たとき、逆時計回り(左回り)にたどれば、その人から遠ざかるようなねじ」と定義されています。
図4 右ねじ | 図5 左ねじ |
次に、「一条ねじ」「二条ねじ」「多条ねじ」というねじ用語があります。それぞれの定義は以下の通りです。
一条ねじ:リードがピッチに等しいねじ。
二条ねじ:リードがピッチの2倍に等しいねじ。
多条ねじ:リードがピッチの2以上の整数倍に等しいねじ。
ところで「ピッチ」とは簡単に言えば、互いに隣り合うねじ山の距離のことですが、「リード」とは何でしょうか。
ねじ用語によると、「リード」は「ねじのつる巻き線に沿って軸の周りを一周するとき、軸方向に進む距離」と定義されています(※4)。
一般的にねじは1周すると一定距離進みこの距離がピッチと思いがちですが、実はそうではないねじも存在します。これは一条ねじと二条ねじの違いを理解すると分かります。
市販されているねじ、例えば六角ボルト、六角穴付ボルト、小ねじ類はほとんどすべてが一条ねじです。一条ねじは、図6のように、ねじのつる巻き線が1本ですので、つる巻き線に沿って軸の周りを一周するとき、軸方向に進む距離(リードL)と、隣り合うねじ山の距離(ピッチP)はP=Lの関係となります。すなわち、ねじが1周したときに進む距離はピッチPと等しくなります。
一方、二条ねじは図7のようにつる巻き線が2本あります。図7のつる巻き線1に沿って軸の周りを一周するとき、軸方向に進む距離はねじ山を一つ越えた次のねじ山となり、その距離はリードLです。ピッチは、隣り合うねじ山の距離ですからPとなり、L=2Pの関係となります。すなわち、ねじが1周したとき進む距離(リードL)はピッチPの2倍となり、同じピッチで比較(図6と図7の比較)すると二条ねじが1周するときは、一条ねじの2倍進むことになります。
図6 一条ねじ | 図7 二条ねじ |
ここに二条ねじのメリットがあり、締結時に少ない回転で早く締まることで作業性が向上します。一般的にリードが大きくなると緩みやすくなりますが、同じリードで比較(図4と図7の比較)するとつる巻き線が2本あるため、一条ねじよりもめねじとおねじの接触面積を稼げるため、摩擦の効果で緩みにくくなります。
多条ねじはつる巻き線が2本以上のねじを総称したもので、二条ねじは多条ねじの一種となります。
二条ねじを採用した市販のねじでは写真2のようなサンコーテクノ製のコンクリート用ねじでPレスアンカーがあります。このねじは、二つのねじ山のうち一方が高いねじ山、もう一方が低いねじ山を持つことが特徴です。
写真2 Pレスアンカー |
最近はあまり見かけなくなりましたが、万年筆に使われているねじが多条ねじだそうです。もし、お手持ちで万年筆があれば調べてみてください。
(※3)電流を右ねじが進む方向に直進させると、磁場が右ねじの回転方向に 生じること。
(※4)リードの量記号はJISではアルファベット小文字lですが数字の1と混同する ので、ここではアルファベット大文字Lとします。
項目 | 番号 | 用語 | 定義 |
一般 | 1101 | ねじ | ねじ山をもった円筒又は円すい全体をいう。 |
1106 | 一条ねじ | リードがピッチに等しいねじ。 | |
1107 | 二条ねじ | リードがピッチの2倍に等しいねじ。 | |
1108 | 多条ねじ | リードがピッチの2以上の整数倍に等しいねじ | |
1109 | 右ねじ | 軸方向に見たとき、時計回り(右回り)にたどれば、その人から遠ざかるようなねじ。 | |
1110 | 左ねじ | 軸方向に見たとき、逆時計回り(左回り)にたどれば、その人から遠ざかるようなねじ。 | |
基礎 | 1201 | つる巻き線 | 円筒又は円すいの表面に沿って、軸方向移動と軸線周りの回転角の比が、一定であるような点が描く軌跡。 |
1202 | リード | ねじのつる巻き線に沿って軸の周りを一周するとき、軸方向に進む距離 | |
1206 | ピッチ | ねじの軸線を含む断面において、互いに隣り合うねじ山の相対応する2点を軸線に平行に測った距離。 | |
1208 | リード角 | 平行ねじの場合は、ねじ山のつる巻き線と、その上を通るねじの軸に直角な平面とがなす角度をいう。特に指定のない場合は、有効径を定義するために用いた仮想的な円筒のつる巻き線についてのリード角を指す。(一部省略) |