前回までの紙面でお話したように、現在では、メートルねじの許容限界寸法は6H、6g等の公差域クラスで指定しますが、1982年のJIS改正前は、許容限界寸法を1,2、3級という等級(以下、「在来の等級」)で指定していました。しかし、国際性を保つため、国際標準化機構(ISO)の等級(以下「ISO等級」)を採用することになり、JIS改正に至りました。
改正当時はJIS B 0209(メートル並目ねじの許容限界寸法及び公差)、JIS B 0211(メートル細目ねじの許容限界寸法及び公差)のそれぞれの附属書で表1、2のように「在来の等級」と「ISO等級」との対応表が掲載されていました。
その後、幾度かの改正で上記附属書が廃止され、現在ではJIS B 0209が、メートル並目ねじと細目ねじの両者の公差を規定するようになっています。
上記過程を経て、JISでは「在来の等級」である「1級、2級、3級」という呼び方が姿を消し、さらにJIS B 0211とメートルねじ公差方式を規定していたJIS B 0215(※3)とがJIS B 0209に吸収されてしまいました。
※3 JIS B 0215はISO等級である公差域クラスを規定したものです。1982年の等級改正前の1981年版JISにはJIS B 0215-1973として記述がありますので、かなり以前からISO等級が導入されていたようです。
さて、表1、2で「在来の等級」と「ISO等級」を対応させていますが、両者の許容限界寸法は完全に一致しているものではありませんので、完全互換とはなりません。
在来の等級 | ISO等級 | |
めねじの場合 | おねじの場合 | |
1級 | 4H(M1.4以下) | 4h |
5H(M1.6以上) | ||
2級 | 5H(M1.4以下) | 6h(M1.4以下) |
5H(M1.6以上) | 6g(M1.6以上) | |
3級 | 7H | 8g |
在来の等級 | ISO等級 | |
めねじの場合 | おねじの場合 | |
1級 | 4H(M1.8×0.2以下) | 4h |
5H(M2×0.25以上) | ||
2級 | 6H | 6h(M1.4×0.2以下) |
6g(M1.6×0.2以上) | ||
3級 | 7H | 8g |
参考のために、おねじの場合で「在来の等級」である2級と「ISO等級」の6gについて許容限界寸法を比較するため、JISを抜粋してみました。表3は「在来の等級」、表4は「ISO等級」です。両者を比較すると、わずかではありますが、許容限界寸法に違いがあります。
ねじの呼び | ピッチP | 外径 | 有効径 | 製品のはめあいの長さ | |||
dmax | dmin | d2max | d2min | をこえ | 以下 | ||
M6 | 1 | 5.970 | 5.820 | 5.320 | 5.220 | 0.8d | 1.5d |
M8 | 1.25 | 7.960 | 7.790 | 7.148 | 7.038 | 0.8d | 1.5d |
M10 | 1.5 | 9.960 | 9.770 | 8.986 | 8.866 | 0.8d | 1.5d |
M12 | 1.75 | 11.950 | 11.760 | 10.813 | 10.683 | 0.8d | 1.5d |
M14 | 2 | 13.950 | 13.740 | 12.651 | 12.511 | 0.8d | 1.5d |
M16 | 2 | 15.950 | 15.740 | 14.651 | 14.511 | 0.8d | 1.5d |
ねじの呼び | ピッチP | 外径 | 有効径 | 製品のはめあいの長さ | |||
最大 | 最小 | 最大 | 最小 | を超え | 以下 | ||
M6 | 1 | 5.974 | 5.794 | 5.324 | 5.212 | 3 | 9 |
M8 | 1.25 | 7.972 | 7.760 | 7.160 | 7.042 | 4 | 12 |
M10 | 1.5 | 9.968 | 9.732 | 8.994 | 8.862 | 5 | 15 |
M12 | 1.75 | 11.966 | 11.701 | 10.829 | 10.679 | 6 | 18 |
M14 | 2 | 13.962 | 13.682 | 12.663 | 12.503 | 8 | 24 |
M16 | 2 | 15.962 | 15.682 | 14.663 | 14.503 | 8 | 24 |
ところで、現在でも古い図面で「ねじ等級:2級」等の記述がまれに見受けられます。図面改正を忘れていることも考えられ、作り手としては「在来の等級」と「ISO等級」のどちらで製作(あるいは検査)すべきか迷うところです。このようなときは迷わず、設計者に確認した方が良さそうです。また、検査担当者は、6gで製作しているのに、2級のゲージで検査していた・・・ということがないように注意する必要があります。